兵庫、京都、大阪で誠実に丁寧に木の家をつくる芦田成人建築設計事務所

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住まいづくり通信 7/4号

小さな住まいの魅力

 

私が思う小さな住まいについて、具体的な定義はありません。床面積が単に小さいだけと言う事ではなく、あえて定義付けするなら、30歳代(特に年齢の限定は必要ないでしょうけども)の平均的な年収で無理なローンを組まずに建てられる住まいと言った所かなと思っています。

 

但しこれには今の時代を反映して考えなければいけない内容が沢山、詰まっているのではないでしょうか。右肩上がりの好景気ではない日本の社会で、それに習うように所得も飛躍的に上がる可能性は低く、住まいへの投資もそれに見合ったものとなってくる、必然的に住まいはある程度、コンパクトさも要求され、住まい手のセンスや物理的な持ち物の量も制限されます。

 

ただこれは考え方一つで物が沢山あるから裕福だと言う事ではなく、不要な物は買わない置かないといった物を厳選する目が必要になり無駄を削ぎ落とすセンスが身についた暮らしが出来ると言う考え方は出来ないでしょうか?

 

戦後日本の住宅史に痕跡を残した故 増沢洵氏の自邸はわずか9坪に4人が暮らすと言った、本当に小さな住まいでした。この大きさは戦後の住宅難の資材不足から設けられた建築制限も大きく影響しているようですが、当事、氏の月給換算で融資可能と判断した大きさが15坪、吹抜けを入れない状態で9坪と言う事だったようです。

 

また現在、このたった9坪の家を現代版として再現したのが 小泉誠氏設計のスミレアオイハウスだそうで、9坪ハウスと言うブランド戦略により色んな設計者が加わりバリエーションを展開させているようですが。

 

さて、自分の事に目を向けてみますと、これまでに仕事をさせて頂いた方の中にも実は、そんな小さな住まいにすんでいらっしゃる方がいらっしゃいます。

私が設計したわけではなく著名建築家の 坂本昭氏が設計された離れに住まれていて、私はその真向かいにある母屋のリフォームの仕事を昨年させて頂いたのですが、まさかこんな田舎でそのような建築家の住まいに住んでいらっしゃる方がいるとは夢にも思わず、その離れの中を拝見させて頂いた事があります。

 

上下階が吹き抜けによって繋がる完全なワンルーム空間で1階には水周りが1直線に並びリビングダイニングが何とかまかなえる程度のスペースに収納が付随、玄関と呼べるようなスペースも靴を脱ぐ土間や上がり框といった物は全くありません。(一般の方が思っていらっしゃる日本の住まいとは又別の志向と思ってください)と2階には家族4人が何とか一緒に寝られる程度の究極の小さな住まいです、上記の9坪の住まいより更に小さいと思います。

 

それでもその方曰く、ここは一つの場所で全てに手が届くまるでホテルの1室で生活しているようで、狭いけれどこれはこの時に、この人に頼んで建てようと決心したので満足だ、とおっしゃっていました。持つ荷物の量も制限され、私達が分からない所でも工夫して住まれているのだろうと思います。最も、これは究極に近い住まいの形なのかもしれません。

 

最後に私が思う小さな住まいへの考えですが、小さな住まいは、小さく仕切ると本当に小さく息の詰まる思いをすると思います、縦でも横へでも構わないのですが一塊の連続した少しボリュームのある空間を確保し外との連続性を持たせる、そこに皆が集まってワイワイと出来る、そして更に出来る事ならそこが他の色んな部屋やスペースと繋がる核となる、そのような住まいであれば小さくても快適で大きな暮らしが出来る住まいになるんじゃあないかなと常々考えています。

 

今日はいつもとは少し違った感じの住まいづくり通信でした。